□ 夏の桜 □

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01:とある少年の不遇な運命

 何か、夢を見ていたのか。
 身体が大きく痙攣したところで僕は一気に夢の世界から舞い戻ってきた。
 ボールを顔面に向かって投げられた夢を見たのだ。
 そのボールはいじめっ子リーダーのワカサ ダイゴロウの手を離れたときは野球ボール程度だったのに、僕の正面に来るときはバスケットボールか、もしくはもっと大きい物体になって猛スピードで向かってきた。
 危ない!そう思ったとき、目が覚めたことになる。


 身体は起き上がってもまだここがどこかは分からない。
 半分しか開いていない目で周りを見渡した。
 黒板が目に入る。
 クラスの人たちが机に突っ伏して寝ている。
 何だ、もう一度寝よう。
 今一度机に顔を伏せたとき、僕は頭の中で何かもやがかったものが綺麗さっぱりすっきりした感覚に陥った。
 それは朝の目覚めのように爽やかで清々しい……とはずいぶんかけ離れてる。
 むしろ、恐怖と驚きで頭がそれ以外のものを認めなかった。
 どうして僕はここにいる?
 ど う し て 僕 は こ こ に い る ん だ ?
 僕は今日、学校を休んだはずだ。
 学校に行くのがいやで、母親も父親も家にいないことを好都合に仮病を使った。
 僕は家のベッドで寝ていたはずだ。
 なのにどうして。
 どうして僕は教室にいるんだ――?!


 一番後ろの隅の席で呆然として正面にある黒板を凝視している僕の視界の中で、もぞもぞとうごめくものを見つけた。
 カガ タカトシだった。
 彼はきょろきょろと周りを見回すと、僕を見つけて一瞬目を輝かせたが、すぐに向きなおしてしまった。
 中3にしては小さい身体で、あまり目立ったほうじゃない。
 目立つことも嫌いだったカガ タカトシは、あまり友達がいない。
 隣の席の人間を起こそうかどうか迷っているようだった。
 僕はやけにひやりと感じるものを首筋に感じ取った。
 まだ9月の下旬、半袖のワイシャツで過ごしてもいける季節だ。
 少し蒸し暑さすら残っているはずなのに、首だけが氷のネックレスをつけているかのように冷たい。
 何だこれ、僕はこんな特注品頼んだ覚えはない。
 氷のネックレスに手を触れてみる。
 チョーカーのように首にぴったりと来るタイプのものだ。
 どうして僕がここにいるのかも不思議だったが、こんなものをつけているのも不思議だった。
 何があったんだよ、一体何が――
「プログラムじゃね?」
 人々が示し合わせたように一斉に起床し始めたので声の主ははっきりしなかったけれど、確かに声の主はプログラムというカタカナ5文字を呟いたのだ。
 プログラム?
 プログラムって……まさか、はは、本当に?
 誰もが恐怖に怯えた。
 目の前に姿かたちの見えないものがそびえ立ち、それに畏怖してひざまずいている。
 僕もまた、その一人だった。
 プログラム?プログラムってあの――
 と記憶の衣服からほつれた糸をたどって進んでいく。


「やあやあ生徒諸君! お目覚めかね。入室が遅くなって申し訳ない。全員起床済みか?」
 糸をたどっていた途中なのに、やけにはきはきとした声色の別の声に邪魔された。
 その姿を見て僕はただ馬鹿正直に『この人誰?』とだけ考えた。
 綺麗に8対2に分けられた前髪の下に光るおでこがすごく目に留まる、中肉中背のスラックス男がそこに立ち、その周りに控えるように迷彩柄の服を身に付けている兵士達が取り囲んだ。
 彼らは皆、肩から長い銃をかけていた。ニュースで見たことがある。
 中東戦争の際に市民団体が武器として使っている、アレと一緒だ。

 なんだよ、なんなんだよこれ……!!
 冗談じゃないよ、訳わかんない!


 僕の混乱はよそに、スラックス男は声を張り上げた。
「君らはプログラム――第68番プログラムに選ばれた!名誉と共に散るがいい!」





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