□ 夏の桜 □

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05:とある少年の鬱屈たる想い

 僕は誰にも必要とされていない。
 死にたい。
 だけど死ねない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死に――


『あーあー、本日は曇天なり。マイクテスト中マイクテスト中……よし、聞こえるようだな。こちらはヒ イヅルである。午後12時を回ったぞ生徒諸君。お約束どおり定時放送の時刻だ。迅速に筆記用具と地図と名簿を用意したまえ。今から10秒の猶予を与える』
 どこかにスピーカーでも用意してあるのか、突然ヒ イヅルの声が聞こえてきた。
 でも出発したところが小学校ならその近くにチャイムを流すようなスピーカーがあってもなんらおかしくない。
 僕は彼の声によってバーチャル世界から手荒に引きずり戻されたようだった。

 声の主が誰かは分かったけれど、彼が何を言っているのかの意味はいまいち理解不能だ。
 筆記用具と地図と名簿を用意したまえ?
 だいいち僕は学校を休んだはずだ。
 それなのに効して制服をきちんと着て、知らない場所に連れて行かれている。
 筆記用具はもちろん知らない場所の地図なんて持っているはずがないだろ!
 半ば叫びあげだしそうだった。


 そんなことを考えている間にも猶予時刻は過ぎ、ヒ イヅルの神経質かつハキハキとした言葉遣いがまたスピーカーから聞こえてきた。
『ではまずはじめに死亡した生徒の名を告げるので線を引くなり何なりとしてくれたまえ。よいか……?』
 ヒ イヅルは一度だけコホンと咳払いをすると再び口を開いた。
 訳が分からないがとにかく考えられるすべての可能性を導き出してみた。
 名簿や筆記用具を持っていない。
 でもヒ イヅルはそれらを出せ、といったのだ。
 だったらしまってある場所は――あの時ガタイのいい兵士から投げられキャッチし損ねた例の大きなリュックに目をつけ、本能の赴くままにチャックを開け、中を荒らした。


 あった!
 名簿や地図、筆記用具を取り出して安心しているのも束の間、ヒ イヅルは僕のこんな状況もお構い無しに淡々と名前を読み上げていった。
『統計上、死亡した生徒から名を読み上げるぞ。タンバ サチコエチゼン ミユキイワシロ ソウゴトオウミ ユミコナガト ユウキ……以上5名だ』
 僕は震える手で今名前を読み上げられた5人の名前のところに横線を一本引いていった。

 今、確かにヒ イヅルは“死亡者の名前”を読み上げたんだよ……な?
 だから、つまり……その、今名前を読み上げられた人は、みんな、死んだんだろう?
 本当に?こんなところでドッキリをやったってしょうがない事ぐらいわかっている。
 だけどどうしても腑に落ちない点が数々あった。

 ぼくをいじめていたえちぜんみゆきとたんばさちこが、死んだんだろ?


『さあ次は禁止エリアだぞ。次は地図を用意したまえ。猶予は10秒だ』
 キンシエリア?初めて聞く単語だった。
 それもそうだろう、僕はルールをまったく聞いていなかったのだから。
 とにかく単語から想像するに入っちゃいけないエリアというわけなのだろう。しかし僕はあたりを見回した。
 僕は今、はたしてどこにいるんだ?そんな疑問を浮かべながらもその回答を出すのは後回しにしようと思った。
 とにかく今は何でもかんでもこの放送の言ったことを鵜呑みにしないといけない。誰かに出会ってルールをきちんと解説してもらうまでは、この方法しかないのだから。

『良いか。午後1時からC−07、午後3時からG−01、午後5時からD−03だ。いいか、今回限りは初めての放送なのでもう一度言おうではないか。後1時からC−07、午後3時からG−01、午後5時からD−03だ。以上、これにて定時放送を終わる。次回は午後6時だ』
 耳障りなブチッという音の余韻を反響させ放送はそれっきり終わった。


 記録を終えてから地図をまじまじと見てみた。
 地図いっぱいに広がるのは島の輪郭だ。
 南北に伸びる島で、南側のほうは細い。
 どこの島だかわからないが、北側の山のふもとや海岸線沿いには家屋も存在するらしい。
――ねえ、えーじくん、またいっしょにあそぼう
 突然捏造された過去の声が脳裏に舞い戻ってきて僕は身震いをした。
 夏なのに身体は寒い。
――ねえ、えーじくん、また“一緒にこっち側で”あそぼう
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 必死になって首を振った。
 僕にはやることがあるんだ!
 死なないためにも僕にはやることがあるんだ!
 僕は死にたくない。
 だからお願いだ。
 もうこれ以上僕をさいなませるのは止めてくれ。
 もうこれいじょう、ぼくをいじめないで。


気がついた時は、僕は荷物をぐしゃぐしゃにまとめたバッグを胸に抱えて走り出していた。
涙と鼻水が、顔を覆いつくしていた。




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